羽村駅西口区画整理事業の違法性と公金支出差し止め裁判の経過

平成18年(2006年)4月25日最高裁判決
主文
原判決を破棄し,第1審判決を取り消す。
本件を東京地方裁判所に差し戻す。

第1審判決とは
平成15年(2003年) 12月4日 東京地裁「却下」の判決
「監査請求は、請求の特定を書くものとして不適法であるとし、処分性がないことを理由に問題の核心について審理することもなく入り口論に終始、違法性を訴える住民の声を門前払いした」
羽村市監査委員は、「2001年度に支出された公金の返還と公金支出の差し止めを求めた」住民監査請求を却下したが、最高裁判決は処分性がなくても監査請求できるとした点で大きな意味を持った。
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監査請求

 

「羽村市職員措置請求書」   平成1410

 

 並木心市長は、2001年度の予算で、羽村駅西口地区整備事業に関連して、14519714円を支出した。

 羽村駅西口の約43ha居住者2700人という広大な地域に、総事業費346億円(都の負担140億円、市の負担206億円)もかけて行われる、バブル時代の置き土産のような時代錯誤の事業である。

 この地域には、豊かな歴史的景観の残る自然と調和した街並みの中に住民が平穏に居住している。

 この事業は当該住民の土地を2割以上奪い取るのみならず、清算金を負担させられる場合もあり、道路を碁盤の目のように整備拡張し、画一的な居住空間を形成するもので、そのために、生活の破壊、財産の侵害、環境の破壊、地域の崩壊など、住民に多大な犠牲を強いる不当、違法な事業である。

 この事業に対しては、地域住民、地権者の反対が強く、19964月には都知事、市長宛てに「事業中止を求める署名」1695人分。都に対して、20024月には1243通の反対意見書が提出され、250人以上の地権者が「事業に協力市ない旨の通告書」を市に対して提出している。にもかかわらず、現市長と前市長、助役以下の市の責任者、担当者は、住民の反対の意志、意見を全く無視し、この無謀な計画を強行している。

 これほど、地域住民、地権者の反対が強く、協力が得られない計画は、事業として成立の見込みが全くないにもかかわらず、並木市長は、毎年、財政のきわめて厳しい中から多額の事業予算を計上し、市民、都民、国民の税金を無駄に浪費している。

 

 この区画整理事業は、国民の基本的人権、財産権、生存権、生活権、環境権を定めた憲法11条、25条、29条等の諸条項に違反し、都市計画の民主的な住民参加、説明責任、情報公開等の手続きを定めた都市計画法16条、17条、18条等に違反するのみならず最小の経費の支出を求めている地方自治法第2条及び地方財政法第4条等々の法令に違反する。よって、市長の責任において、2001年度に不当、違法に支出された14519714円を羽村市に返還し、今後もこのような不当、違法な事業に対し、公金を支出しないよう適切な措置を求める。 

 

 しかし、平成141015日、羽村市監査委員は、「財務会計上の違法性・不当性が具体的に主張されていない」として「却下」した。

 

 

平成14年11月13日 東京地裁に提訴 原告129名

 

訴状 

羽村駅西口区画整理事業の違法性のあらまし

 

 

1、区画整理法2条違反

 

(1)土地区画整理事業に要求される事業「目的」

 

 土地区画整理法は、第1条で、目的「土地区画整理事業に関し、その施行者、施行方法、費用の負担等必要な事項を規定することにより、健全な市街地の造成を図り、もって公共の福祉の増進に資することを目的とする」と規定し、2条1項においては、「都市計画区域内の土地について、公共施設の整備改善及び宅地の利用の増進を図る為」に行われる事業としている。

 つまり、土地区画整理事業においては、その目的として、①公共施設の整備改善と ②宅地の利用の増進の双方を、併有することが求められており、施行地区全体について、そのいずれか一方を欠けば違法となる。

 

(2)本件事業計画案等でいう目的の虚構性

 

ア、羽村市当局は、この事業の目的として「都市基盤整備」「緑の確保」「商店街の活性化」「人口の増加」などを挙げているが、どれをとっても、「宅地の利用の増進を図る」目的とはほど遠く、土地区画整理事業の手法をよくとられる「災害からの復興」等と比較すれば、必要性緊急性を全く感じられないばかりか、道路用地の確保のみに主眼を置いた「公共施設の整備改善」のみの事業計画でこれらの「目的」は無内容なものでしかない。地域住民の強い反発を受けながら強引に推進する理由は全く見当たらない。

 

イ、「利便性の高い駅前市街地委の再編」というが、本地域は元々、羽村駅から徒歩圏内にある利便性が高い平穏な住宅地であり、再編の必要性は低い。

 

   「良好な居住環境の確保」というが、元々、本地域は、歴史ある良好な住宅環境で、公害源になる工場や幹線道路や高層建築物もきわめて少ない。逆に巾20mから40mの巨大な通過道路をこの地域に3本も通すことによって、地域の分断や交通量の増加、交通渋滞や大気汚染、騒音被害が生じ、住環境が劣悪化する結果となる。

 

 ウ、羽村市の説明で挙げている目的は虚構に過ぎない

  「都市基盤整備」といっても、事業計画案でも市が認めているように、本地域は電気、電話、上下水道が整備されており、文教施設、公益施設も適度に存在する。変化に富んだ閑静な街並みは、虫食い状の無秩序なスプロール現象などという状態にはない。

  地域内の道路の幅員も消防車が通れないほどではなく、災害に対する対策が緊急に必要な状況にはない。逆に区画整理をしてゆとりの空間を無くし、住宅を密集化すれば、火災や地震に脆い都市になる。移転のために曳き家をした住居は土台も柱も弱くなり、耐震性が弱まる。

 

   「緑の確保」も名ばかりのもので、もともとこの地域は、街路や神社などに緑が多く、貴重な樹木、草花、動植物も豊富である。区画整理でいったんこれらの自然な緑を消失させてしまった上で人工的な「緑」に変えるというもので、自然の生態系を根本から破壊してしまうものである。

 

   「商店街の活性化」について、市は説明会で「駅前を中心とした商業地域等では、土地の効率的利用の観点から、土地所有者の意志により、中高層ビル等が建築される事も考えられます」と述べているが、現在の経済情勢では、民間デベロッパーは簡単に現れないだろうし、ビルが出来てもテナントが入らないだろう。さらに、区画整理に嫌気がさして移転していった人もいる。人口の増加も見込めない。

 

(3)宅地利用の増進の目的の欠如

 

 宅地利用の増進の目的は、既に目的が達成されているものであり、目的の設定自体が見せかけのものといえる。

 本件区画整理事業は、道路の拡幅という公共施設の整備化以前のみを目的と市、宅地利用の増進を図る目的をかくものであり、土地区画整理法1条の趣旨に反し、2条に違反するものとして違法である。

 

2、都市計画法16条1項等の違反

 

 区画整理事業は、減歩による土地の没収、換地による移転、清算金による金銭の没収を伴う財産権を侵害する事業であることから住民への説明責任、住民の納得、住民の合意が必須の事業である。ところが、羽村市の当該事業は、いずれもなされていない。

「住民の理解と協力」を求める都市計画法、土地区画整理法に照らし合わせても違法な事業であると主張することが出来る。

 

 都市計画法162項は、「都市計画に定める地区計画等の案は、意見の提出方法その他の制令で定める事項について条例で定めるところにより、その案に係る区域内の土地の所有者その他制令で定める利害関係を有する者の意見を求めて作成するものとすると規定している。土地所有者、利害関係者の意見が反映されない違法な事業である。

 

3、地方自治法214項、財政法4条違反

 

 地方自治体は地方公共団体の事務処理の原則について「地方公共団体は、その事務を処理するに当たっては、住民の福祉の増進に努めるとともに、最小の経費で最大の効果を上げるようにしなければならない」と定めている。地方財政法は地方公共団体の予算の執行について、「地方公共団体の経費は、その目的を達成する為の必要且つ最小の限度を超えて、支出してはならない」と定めている。これは地方公共団体が住民の付託を受けて住民の税金により、その事務の執行を行っていることから当然の規定である。本件のごとく、違法な当該事業に対して、無駄な支出をすることは、上記の条項に違反する。

 

4、憲法の29 財産権、25 生存権、13 幸福  

  追求権、環境権等の侵害。

 

 地価の上昇を前提とした減歩制度は、地下の暴落した現在、その前提が崩れ、明白な財産権の侵害となる。「正当な補償」をせずに、土地の収奪をすることは、憲法第29条、第1項、第3項に違反する。憲法違反の事業の遂行は違法であり、その支出の原因となる行為が法令に反する場合の公金支出も違法となる。

 

 羽村市は、前市長時代からこの事業について説明責任の欠如、情報公開の拒否、住民の意向の無視、合意の捏造、推進派の後押し、説明会の一方的な強行、地域住民の分断を行った。又、事業推進のために、町内会の利用、地域外住民、建設業者の動員など、住民の生存権、幸福追求権などを侵害するような行為が既に多数行われている。

 

 憲法13条において幸福追求権、第25条において生存権の保証を定めているが、そこには平穏に生活する自由、豊かな環境を享受する自由、地域住民が平和的、協調的に生活する自由、行政による違法な事業の強制による生活の干渉からの自由なども含まれると解される。本事業は土地の没収、金銭の没収によって財産権を侵すだけでなく、憲法に規定された様々な基本的権利を脅かしている。

 

5、本件区画整理事業の破綻の必然性

1,東京都新都市建設公社への「丸投げ」

2,新都市建設公社は東京都の天下り受け皿公社

3,破綻し始めた新都市建設公社の区画整理

4,延伸の見通しが立たない多摩都市モノレール

5,損失が累積する多摩都市モノレールと一体化した区画整理事業

 

6、土地区画整理事業の問題点

1,田中角栄が中心に造った土地区画整理法

2,土地区画整理法の反住民性

3,土地区画整理法は憲法29条に抵触する

(1)地価暴落の中での減歩の違法性

(2)有無を言わせない換地処分

(3)原告らにとって虚構に過ぎない「減価補償制度」

(4)清算金の収奪

4,区画整理事業は、区画整理族の仕事作り

5,区画整理の手法のいきづまり

 

7、違法な支出の対象額 

 土地区画整理事業は、都市計画法、土地区画整理法に基づき、住民の納得と協力が必要であるが、羽村駅西口土地区画整理事業は、対象住民の過半数が反対署名を提出した。1996年8月、ないしは地権者が「事業へ協力しない旨の通告書」を提出した1999年2月には、事業が成立する見込みが無いと判断し、断念すべきであった。土地購入費、調査委託費など、それ以降の当該区画整理事業に対する支出は、すべて違法な支出と見なすことが出来る。

  

 住民監査請求の対象は、請求から1年の間が対象となるため、住民監査請求、本住民訴訟は2001年10月1日から2002年9月30日迄の以下の支出が損害賠償対象額となる。

①羽村駅西口地区整備用地購入費として支払った、2億2751万6720円

②羽村駅西口地区整備事業調査等委託量として支払った、1765万4700円

③その他の諸経費、123万6546円

   合計、2億4640万7966円

 

裁判の経

1,羽村駅西口土地区画整理事業の公金支出差し止めと支出金の返還を求める裁判         

 

平成14年

10月1日 226名で住民監査請求「2001年度に支出された公金の返還と公金支出          

      の差し止めを求めた」

10月15日 羽村市監査委員が監査請求を却下

11月13日 東京地裁に提訴 原告129名

 平成15年

 1月28日 住民による口頭陳述 約20分(7回に及ぶ入り口論争)

 12月4日 東京地裁「却下」の判決

「監査請求は、請求の特定を書くものとして不適法であるとし、処分性がないことを理由に問題の核心について審理することもなく入り口論に終始、違法性を訴える住民の声を門前払いした」

 12月18日 東京高裁に控訴。 原告85名。(審理4回)

平成16年

 7月20日 東京高裁「却下」判決

 8月2日   最高裁へ上告。  原告83名。

平成18年

 2月7日   最高裁から「上告審として受理」の決定と「口頭弁論」の連絡が届く。

  4月4日  最高裁にて口頭弁論が行われた。

  4月25日 最高裁第3小法廷は「監査請求の対象は充分特定されており適法」として 

        門前払いした一審、二審を破棄し、東京地裁に差し戻した。

7月31日 駅前14等の移転補償費の差し止めを求める監査請求336名が提出。

 9月1日   羽村市監査委員が監査請求を「却下」

 10月3日   東京地裁に提訴。235名

    二重起訴禁止のため、差し戻し審の原告を除いた160名が共同訴訟の形で提訴。

 10月18日 訴訟参加の申し立ては、違法理由の追加という形で認められ、差し戻し

               審の原告が242名となった。

平成20年

 10月14日 東京地裁判決。

     既に代金を支出完了部分は、訴えの利益がないことを理由に「却下」。事業の違法

    性に関しては、その理由がないとし、羽村市の主張を引用しただけで、我々の主張を

    検証することもなく「棄却」とした。

 10月27日 東京高裁に控訴。原告220名

平成21年

 7月14日 住民90名が東京高裁に陳述書を提出。

 11月25日東京高裁判決「棄却」。東京地裁の判決と同じく羽村市の言い分をなぞる形                                            

 12月8日 最高裁に上告。原告、212名

平成22年

 9月30日 最高裁、上告を「棄却」、上告審として受理しない決定。

 

羽村駅西口区画整理反対の住民は、これからも、おかしいことはおかしいと、あらゆる機会に声を上げていきます